
経口中絶薬が日本初の承認申請へ。動向や安全性、リスクについて徹底解説

日本では聞き慣れない経口中絶薬という言葉。諸外国では一般的な中絶方法として知られていますが、薬事法上未承認である日本では多くの女性にとって聞き慣れない薬でしょう。
この記事では経口中絶薬について徹底解説。経口中絶薬の作用や日本で未承認とされている理由、副作用、承認申請への動きなどについて詳しく紹介します。
女性にとって望まない妊娠は人生を左右する大きな問題です。そして、経口中絶薬の承認申請は問題を解決する方法が増えるかもしれないということ。
今現在望まない妊娠に悩んでいる女性も、そうでない女性も、経口中絶薬について理解を深める参考にしてみて下さい。
経口中絶薬とは
「経口避妊薬」や「緊急避妊薬」という言葉は耳にしたことがあっても、「経口中絶薬」を知らないという人は多いでしょう。
まずは、日本人女性にとって馴染みのない経口中絶薬の概要や現状について紹介します。
経口中絶薬は堕胎するための薬
経口中絶薬とは、その名の通り中絶に有効な作用を持つ服用薬です。
ただし、妊娠全期を通して服用できる薬ではありません。経口中絶薬による堕胎が認められている諸外国では、妊娠初期の堕胎に用いられる薬です。
様々なリスクも鑑みて、医師による診断や処方、適切な服用方法の徹底などが求められます。
日本では未承認!輸入も禁止
日本では人工中絶というと手術を連想する人が圧倒的に多いでしょう。それは、経口中絶薬の存在自体を知らない人が多いからとも言えます。
経口中絶薬が認可されているのは、アメリカやカナダ、EU主要国の他アジアなど。
しかし、日本では2022年2月現在未承認です。 現状国内で生産されているものは無く、基本的に医師からも処方を受けることはできません。
経口中絶薬は海外製品のものしかなく、原則個人での輸入も禁止されています。医師の処方せんまたは指示書に基づき必要な手続きを行わない限り、個人輸入することはできません。
国内で経口中絶薬が承認されていない理由はいくつかありますが、理由については後程紹介していきます。
経口中絶薬と緊急避妊薬の違い
日本における経口中絶薬の知名度は低く、緊急避妊薬と混同してしまう人も少なくありません。経口中絶薬と緊急避妊薬は全く別の薬です。
服用のタイミング | 服用の目的 | 承認の有無 | |
---|---|---|---|
経口中絶薬 |
妊娠が成立した後(着床後)
|
堕胎
|
薬事法上 未承認
|
緊急避妊薬 |
妊娠が成立する前(着床前)
|
着床の阻害
|
薬事法上 承認済み
|
それぞれの薬は服用のタイミングや目的が全く異なります。
特に大きな違いは、緊急避妊薬は薬事法上で承認済みの薬であること。医師によって処方が受けられる薬です。 避妊に失敗してしまった場合は、着床を阻害して妊娠を防ぐため迅速に緊急避妊薬の処方を受けましょう。
緊急避妊薬については以下の記事でも詳しく解説しているので、参考にしてみて下さい。

経口中絶薬で堕胎する仕組み
経口中絶薬を使った堕胎方法では、妊娠状態を薬剤によって中断し人工的に陣痛を誘発して胎児を排出します。
諸外国によりさまざまな経口中絶薬や、それぞれの服用方法がありますがWHOが推奨しているのは2種類を併用する方法です。
妊娠中はプロゲステロンというホルモンが分泌されることで、妊娠状態を継続。経口中絶薬の多くは、プロゲステロンの分泌を抑制する成分を含有。プロゲステロンの分泌を抑制することで強制的に妊娠の維持が不可能な状態にします。
WHOが推奨する方法では、ミフェスプリストンという薬剤でプロゲステロンの分泌を抑制。続いてミソプロストールという薬剤によって子宮収縮を起こし陣痛を誘発します。
陣痛を誘発して堕胎するため、もちろん痛みを伴います。しかし、日本で主流とされている初期中絶方法(掻爬術)よりも母体への影響は少ないと考られているようです。
日本で経口中絶薬が承認されていない理由
諸外国では、望まない妊娠をしてしまった女性の負担を和らげるために用いられている経口中絶薬。心身の負担を抑えるためにも、複数の選択肢があることは重要です。
それでも日本で経口中絶薬が未承認な理由として、2つの問題が挙げられます。
母体保護法に抵触するため
日本には、母体の健康を守るための法律として母体保護法が制定されています。1996年に施行開始され、母体保護法により人工中絶の処置は指定医師のみが行えるものとなりました。
また、指定医師が人口中絶の処置を行うことができるのは以下のいずれかに該当する場合のみです。
- 経済的理由や身体の理由によって、妊娠の継続や分娩が母体の健康を害するおそれがある場合
- 同意のない性交や性的暴行により妊娠した場合
母体保護法を守るために刑法も制定されています。刑法212条堕胎罪では、妊娠中の人が薬物やその他の方法で堕胎した場合、懲役刑を課すことも。
指定医以外の人口中絶処置は認められていないため、妊婦が自分自身で経口中絶薬を服用し堕胎することも法律に抵触してしまうのです。
重篤な副作用を起こす危険性があるため
経口中絶薬の扱いは非常にデリケートです。承認を受けている諸外国でも原則として医師の処方や経過の観察を必要としているケースが多いようです。
その理由は、稀に重篤な副作用を起こす可能性があるからだとされています。
経口中絶薬では、100人中5~8人程度の割合で外科手術を必要とする重大な副作用が起こることが報告されています。
膣からの大量出血が起こり母体の命にかかわる危険性があることも、経口中絶薬の個人服用が国内で危険視されている理由のひとつ。
また、経口中絶薬は子宮外妊娠の際の堕胎には効果ないものとされています。妊娠反応が出ても医師の診察を受けなければ正常妊娠か子宮外妊娠かの判断はできません。
そのため、医師の診察無しに経口中絶薬による堕胎が完了したと自己判断してしまうと、子宮外妊娠の放置に繋がってしまうことも危惧されます。
結果として、子宮外妊娠の放置による卵管破裂など母体の生命を脅かす症状に繋がるケースも報告されているようです。
厚生労働省も注意喚起!個人輸入してはいけない経口中絶薬
2つの理由から経口中絶薬や日本で認められていません。
しかし、法整備が整っていなかった2004年以前には、少量であれば諸外国から経口中絶薬を個人輸入することが認められていました。
個人輸入した経口中絶薬による健康被害が報告されたことから、厚生労働省は少量であっても医師の関与しない個人の輸入を禁止。
現在でもいくつかの経口中絶薬を制限し、個人輸入しないよう注意喚起をしています。
一般名:ミフェプリストン(MIFEPRISTONE)
商品名:ミフェプレックス(MIFEPREX)
通称:RU486
欧州における商品名:ミフェジン(MIFEGYNE)
中国における商品名:息隠(米非司酉同片)
台湾における商品名:保諾(Apano)
法律により規制されているものの、規制の裏をかいくぐる個人輸入業者がいないとは言い切れません。
経口中絶薬は、海外でも医師の診察のもと処方されているもの。自己判断での服用は、経口中絶薬を承認している諸外国でも危険であると示されています。 決して個人輸入や自己判断で服用しないよう注意して下さい。
【海外でも慎重に取り扱われる経口中絶薬】服用してはいけない人の特徴や副作用
経口中絶薬において危惧されている副作用の問題。これは何も日本人に限って起こることではありません。
海外でも、体質や持病などさまざまな理由で経口中絶薬の服を禁忌とされている人がいます。
続いては、経口中絶薬を服用してはいけないとされている人の特徴や副作用について詳しく紹介していきます。
服用してはいけない人の特徴
経口中絶薬は、以下の特徴を持つ人への処方や服用を禁忌としています。
- 最後の月経から49日以上経過した人
- 卵管妊娠(子宮外妊娠)をしている人
- 子宮内避妊具(IUD)を挿入している人
- 副腎障害を持つ人
- ステロイド薬物による治療を受けている人
- 異常出血がある人
- 抗凝血剤を服用している人
- ミフェプリストンやミソプロールなど、同様の薬に対するアレルギーのある人
製薬会社によって多少異なるかもしれませんが、基本的に上記に当てはまる人は経口中絶薬を服用することによって重大な健康被害や副作用を起こす可能性が高いとされています。
副作用
経口中絶薬の副作用として、以下の症状があらわれるおそれがあります。
- 膣からの出血
- 下痢
- 吐き気
- 腹痛
- めまい
- 腰痛
副作用以外にも、敗血症などの細菌性感染症を引き起こす恐れや、子宮外妊娠の放置による卵管破裂の危険性についても警告されています。
2021年経口中絶薬の承認申請を実施
経口中絶薬が未承認である我が国では服用のリスクが重視されがちです。
しかし、世界では女性の心身の負担を和らげるため「中絶方法の選択肢」が必要であると考える国も多くあります。
望まない妊娠をしてしまった時、中絶方法を選べるのであれば選びたいという女性は少なくないでしょう。
これまで、健康被害が危惧されていましたが2021年4月、イギリスの製薬会社「ラインファーマ」が行った治験結果が日本産婦人科学会で報告されました。
この治験は日本国内における経口中絶薬の有効性と安全性を確かめる目的で行われたものです。
治験の結果、日本国内での有効性や安全性が確認されたとして、製薬会社は2021年内に経口中絶薬の承認申請を行う見通しであることが報道されました。そして2021年12月22日、厚生労働省に承認を申請しました。
承認されるかは未だ分かりませんし、処方方法、価格、副作用など問題点は数多くあるでしょう。
しかし、中絶手術への選択肢ができる可能性があるとして、大きな注目を集めています。
望まない妊娠を防ぐための経口避妊薬という選択
望まない妊娠をしてしまった際に、経口中絶薬で堕胎できるとしたら心身の負担が多少和らぐかもしれません。
しかし、痛みを伴う身体へのリスクや排出された胎児を目のあたりにする心理面での影響は計り知れないものです。
もしも経口避妊薬が承認されたとしても、手離して喜んでいるだけではいけないでしょう。まずは、妊娠を望まないのであれば有効な避妊方法を検討することが大切です。
特に、日本では男性が主体となるコンドームの単一避妊が一般化してしまっています。これは、コンドームの装着不備やコンドーム自体に破損があれば、避妊失敗となってしまう可能性があります。
望まない妊娠を防ぐためには、女性主体の避妊方法も大切です。
女性主体の避妊方法として用いられるのが経口避妊薬「低用量ピル」です。生殖機能を持って性行為をする以上、100%の避妊は不可能でしょう。
しかし、低用量ピルとコンドームを併用することで、限りなく高い確率での避妊は可能です。望まない妊娠をしてしまう前に、まずは適切な避妊を心掛けましょう。
経口避妊薬については以下の記事でも詳しく紹介しているので参考にしてみて下さい。

まとめ
日本では2022年2月現在未承認である経口中絶薬について詳しく紹介してきました。
リスクがある一方、女性の選択肢を増やすことができる経口中絶薬。2021年12月22日に行われた製薬会社からの承認申請など、今後の動向にも注目してみて下さい。
望まない妊娠をしてしまった際、堕胎という大きな決断をするのは女性にとって計り知れない苦悩があることでしょう。
経口中絶薬が未承認である現在、堕胎の処置をできるのは指定医師のみです。まずは、あなたの気持ちや現状も含めて医師に相談をしてみて下さい。
そして、「今後、もし自分が望まない妊娠をしてしまったら」と考えている人は、まず避妊の徹底を行いましょう。
望まない妊娠をできる限り防ぎ、自分自身を守るためにもコンドームと経口避妊薬を用いて、より確実な避妊への取り組みを考えてみてはいかがでしょうか。
当院では、一人ひとりの症状やライフスタイルに合ったピルをご提案し処方いたしますので、ご希望の方はお気軽にご相談ください。