
ピルの個人輸入・ネット通販が危険な理由。正しい知識と安全な選択を

避妊や生理に関する悩み・婦人科系疾患の改善に使われるピル。さまざまな理由で継続的にピルを服用している女性も少なくありません。多くの人は医療機関やオンライン診療などを利用してピルを購入していますが、近年個人輸入や怪しい海外通販サイトなどでピルを購入したことによるトラブルなども聞かれます。
「できるだけ安くピルを買いたい」「病院に行かずにピルを買いたい」このような理由で安易に個人輸入や海外通販サイトなどを利用するのは大変危険です。
この記事では、なぜ個人輸入や海外通販サイトを利用してピルを購入するのが危険なのか解説します。
ピルは市販で購入できないの?
避妊や生理に関する悩みを解決できる低用量ピル。ピルは、女性のQOLを著しく向上させる他、PMS、月経困難症、子宮内膜症などへの有効性も注目されています。
しかし、ピルは処方薬であるためドラッグストアなどで市販薬として購入できません。
ピルは処方薬に分類されるため、医療機関などで医師の診察を受け、処方箋を受けなければ購入できない薬品です。
市販薬と処方薬の違い
市販薬はOTC薬品とも呼ばれ「要指導医薬品」と「一般用医薬品」に分類されます。どちらもドラッグストアなどで購入できますが、購入時に薬剤師による指導が必要なものが「要指導薬品」、薬剤師の指導が不要なものが「一般用医薬品」と考えてよいでしょう。
ただし、一般用医薬品も第1類から第3類まで分類されており、第1類一般用医薬品に関しては薬剤師の指導が必要です。市販品は消費者が自分で薬を選べることから、副作用や健康被害を最小限に抑えることを重視した有効成分が配合されています。
一方、処方薬は医師の指示のもと処方される薬を指します。処方薬には薬剤師の服薬指導が義務付けられているため、薬剤師のいる調剤薬局でのみ処方を受けられるのが大きな違いです。医師が症状や患者の体質などに合わせて薬剤を選ぶため副作用に関するリスクが抑えられている分、有効成分が多く配合されている薬が多いです。
ピルは保険適用?自由診療?
処方薬の多くは保険適用されますが、避妊目的のピルの場合、原則として自由診療の扱いになります。PMSや月経困難症、子宮内膜症の治療など医療行為として処方されるものに関しては保険が適用される場合もありますが、月経移動や避妊などの場合、2025年4月時点で原則自由診療の扱いです。
アフターピルは市販化を検討中
避妊に失敗してしまった際に望まない妊娠を防ぐ効果が期待できる緊急避妊薬「モーニングアフターピル」については、市販化への検討が進んでいます。2023年には限られた薬局などで試験販売が始められていますが、全国への普及は未だ行われていません。(2025年4月時点)
参考:緊急避妊薬の適正販売に係る環境整備のための調査事業(厚生労働省医薬局医薬品審査管理課委託事業)|公益社団法人 日本薬剤師会
もしも、避妊に失敗してしまい望まない妊娠の可能性がある場合は、医療機関で医師による処方箋を受けて性交後72時間以内にアフターピルを服用することが重要です。

ピルを個人輸入で安く買えるって本当?
ピルは毎日の服用が必要なため、平均して1シートあたり3,000円前後の費用が継続的に発生します。また、処方箋を受けるため医療機関を受診する場合、初診料や診察料、検査費用も必要なため、金銭的に負担を感じてしまう人もいるでしょう。
日本国内ではピルを処方薬として扱っていますが、海外では違います。国によっては町の薬局やドラッグストアなどで気軽に購入できるケースもあるでしょう。こういった法律の抜け道を見つけて、「海外から個人輸入すれば、初診料や診察料、検査料など不要で、ピルだけを購入できる」「海外製のピルをまとめ買いすれば、国内で処方薬を買うよりも安い」といった情報も拡散されています。
しかし、消費者庁は薬の個人輸入や正規輸入以外の方法で海外製品を販売する海外通販サイトについて注意喚起しています。特に薬品は身体に直接的な健康被害を与えるリスクがあるため、十分な注意が必要です。
ピルに関しても、個人輸入や海外通販サイトを通じて入手した製品によるトラブルが多数報告されています。
ピルを個人輸入や海外通販で買ってはいけない5つの理由
ピルを個人輸入や海外通販サイトで購入してはいけない理由は多々あります。今、個人輸入や海外通販サイトの利用を検討している人は、以下で紹介するリスクについてもう一度よく考えてみてください。
理由その1.安全性が保証されないから
日本で薬品を製造するには、さまざまな安全基準や品質基準をクリアする必要があります。特に日本の品質基準は世界トップレベルとされており、製薬工程はもちろん保管や出荷、配送にあたるまで細かな基準が設けられています。
薬は温度、湿度、光などさまざまな影響によって成分が変質してしまうものもあるため、有効成分を安定的に作用させるためにこれらの安全基準、品質基準は必要不可欠な要素と言えるでしょう。
しかし、海外の安全基準が必ずしも日本の基準と同等とは言えません。劣悪な環境で製薬された薬品や保管方法が悪いケースもあります。しかし、個人輸入や海外通販サイトを利用する場合、清潔な場所で適切に製造されているかどうかを確認する術はありません。
理由その2.有効成分が含まれていない可能性があるから
個人輸入したピルや海外通販サイトから購入したピルの場合、本当にその薬がピルであるのか確認する術はありません。パッケージや見た目はいくらでも偽造できますし、有効成分を含まない錠剤を受け取ったとしても、一般人には確かめる術がないでしょう。
特に、避妊目的でピルを服用する人の場合、妊娠して初めて個人輸入や海外通販サイトで購入したピルに有効成分が含まれなかったことを知るケースもあるのです。こういったケースでは「生理はこないけど、ピルを飲んでいるのだから妊娠の可能性はない」という思い込みから妊娠発覚が遅れることも少なくありません。
なかには堕胎可能な期間を過ぎてしまい、望まないまま出産を余儀なくされる人もいます。
理由その3.記載されていない成分が含まれている可能性があるから
海外製の医薬品は、正規販売店など信頼できる販売元以外から購入した場合、どのような成分が含まれているか不明なことがあります。配合成分以外のものが含まれる可能性も否定できません。
実際に、2008年にはタイから個人輸入した痩せ薬を服用した女性が死亡するという事件が発生しています。このケースでは、女性が服用していた持病の薬との相互作用も指摘されていますが、痩せ薬からは本来病気の治療に使われるはずの強力な有効成分が検出されたと報告されています。これは、ダイエット目的では使用されない成分であり、健康リスクを高める要因となりました。
また、2021年にはシンガポールから個人輸入した薬を服用した男性が鉛中毒と診断されたという事例も報告されています。成分表には記載されていなかったにもかかわらず、1カプセルあたり12mgもの鉛が含まれていました。
参考:厚生労働省|タイから輸入された「ホスピタルダイエット」と称される無承認無許可医薬品による健康被害(疑い)事例について
参考:埼玉県公式サイト|注意!シンガポールから個人輸入した無承認無許可医薬品「Penisole」で健康被害が発生!(R3.6)
理由その4.重大な副作用が起こる可能性があるから
ピルをはじめ、多くの薬には副作用があります。市販品の風邪薬でさえ、服用説明書には副作用についての記載がされています。薬には人体にとって良い影響も悪い影響もあるからこそ、強い有効成分を持つ薬ほど専門的な医師、薬剤師の二重チェックによって慎重に処方されているのです。
特にピルの場合、持病の有無や体質によって血栓症のリスクを上昇させてしまう恐れがあります。服用前から血栓症のリスクがある人の場合、一般的にはピルの処方は受けられません。医師が適切に診断することで、重大な副作用を防いでいます。
個人で強い有効成分を持つ薬を購入することは、思わぬ副作用を発症させる危険性があるため、控えた方がよいでしょう。
理由その5.自己責任になるから
国内で処方された薬であっても、重大な副作用などが発生するリスクはあります。しかし、国内基準で認可を受けて製造・処方または販売された薬による健康被害は医薬品副作用被害救済制度の対象です。
医薬品副作用被害救済制度とは、医薬品の副作用によって入院もしくは死亡した人に対して行われる救済給付です。本制度では、適正に医薬品を使用したにも関わらず起きた健康被害に対して、治療費や入院費、障害年金などの救済給付を受けられます。
しかし、個人輸入で購入した医薬品は原則、自己責任とされるため、健康被害が起きたとしても医薬品副作用被害救済制度による救済給付は受けられません。入院をして高額な医療費が必要になったり、障害が残りこれまで通りの生活が難しくなったとして、救済措置を受けられないことを理解しておく必要があるでしょう。
要注意!個人輸入した薬を譲渡・販売するのは違法行為
個人輸入の場合、送料や手数料などを抑えるために大量購入するケースが多くみられます。特に、毎日の服用が必要なピルの場合、個人輸入可能な上限量を購入する人が少なくありません。
しかし、なかにはピルが体質に合わないなどの理由で服用をやめ、未使用の薬を譲渡もしくは販売しようとする人もいます。これは違法行為となります。
個人使用を目的に輸入した薬は、他人に譲渡、または販売することが認められていません。場合によっては刑事罰に処される可能性もあります。
ピルを買うなら医療機関またはオンライン診療で処方を受ける
安いからといって安易に個人輸入や海外通販サイトなどでピルを購入すると、重大な健康被害や望まない妊娠をしてしまうリスクがあります。
ピルは国内で認可を受けているものを、医療機関より処方薬として購入してください。
医療機関を利用する
医療機関を受診してピルの処方を受ける方法が最も安全です。
既往歴や持病などから、ピルを服用するリスクなどを鑑みて診断をしてもらえるほか、生理によって起こっている悩みが病気由来のものであるかどうか検査をして調べることもできます。
ピルを飲んで生理の悩みが解消されたとしても、その影で病気が進行してしまっては元も子もありません。また、避妊を目的とする場合、ピル以外にも選択肢はあります。子宮内避妊具など、取り付け型の避妊具であれば毎日ピルを服用する負担も減らせます。
自分にどのようなピルがあっているのか、またピル以外の選択肢があるのか等を、検査を元に診断してもらえるのが医療機関でピルを処方してもらう大きなメリットと言えるでしょう。
オンライン診療を利用する
医療機関の利用が難しい人にはオンライン診療がおすすめです。
- 医療機関の受付時間内に仕事が終わらない
- 近くに婦人科のある医療機関がない
- 医療機関を受診するのが緊張する
- なるべく手軽にピルを購入したい
上記のような問題を解消するためにオンライン診療を選ぶ人も多くいます。
オンライン診療では、スマートフォンやパソコンなどを利用して遠隔通信で医師の診察を受け、問題がなければピルの処方を受けられます。処方箋を近隣の調剤薬局に持ち込んで処方を受けられるほか、自宅に処方薬が配送されるサービスも近年増えています。
検査などはできませんが、生理に関する悩みを医師に相談できたり、正しくピルを服用する方法をレクチャーしてもらえるため、医療機関より気軽に利用できると人気です。
まとめ
ピルを服用する理由は人それぞれですが、避妊や生理コントロール、月経症状の改善など、全てにおいて「自分の望む快適な生活を送るため」という点においては通じる部分があるでしょう。
しかし、金銭に固執して海外輸入や海外通販サイトなどを利用してしまうと、重大な副作用やトラブルなど、重大なリスクを背負うことになります。「友人が個人輸入をしていたけど問題なかった」という人もいますが、だからといってあなたも問題なくピルを手に入れられる根拠にはなりません。
後悔はいつだってネガティブな出来事が起こった後にするものです。
安全な食事や安全な環境を選ぶのと同様に、ピルも安全に利用できる国内処方の薬を選択しましょう。