骨盤腹膜炎の症状・原因・治療方法を徹底解説!死亡リスクや後遺症・完治できるのかも紹介
若い女性が発症することの多い骨盤腹膜炎という病気を知っていますか?
虫垂炎等の病気と症状が似ていることから診断や治療が遅れるケースもあり、重症化すると死亡リスクもある恐ろしい病気です。
この記事では骨盤腹膜炎について徹底解説。症状や原因、治療方法などについて詳しく紹介します。
気になる症状がある人や、骨盤腹膜炎の診断を受けてどんな病気なのか詳しく知りたいという人は参考にしてみて下さい。
骨盤腹膜炎とは
骨盤腹膜炎とは、骨盤内にある腹膜に起こる炎症のこと。骨盤内炎症性疾患(PID:Pelvic Inflammatory Diseases)のひとつで、女性に発症しやすい病気です。
骨盤内には膀胱や直腸、子宮、卵管、膣などがあります。腹膜は、これらの臓器をすっぽりと覆っている膜です。女性に限らず男性にも起こる病気ですが、女性の場合は膣や子宮、卵管を通して腹膜と外部が繋がっているため発症リスクが比較的高いと言われています。
骨盤腹膜炎の原因
骨盤腹膜炎の主な原因は大きく3つに分けられます。
- 性行為による細菌感染
- 子宮内避妊具(IUD)の不適切な使用
- 開腹手術後の細菌感染
特に近年の発症例は性行為による細菌感染が原因となっているケースが多いです。淋病の原因菌である淋菌やクラミジアによって発症しやすいと言われています。
性行為が原因となっているケースでは、原因菌を保有しているパートナーとコンドームを使用しない性行為を行うことによって感染。原因菌に感染し、膣や子宮、卵管などに起こった炎症が腹膜まで広がってしまうと骨盤腹膜炎を発症します。
骨盤腹膜炎は淋菌やクラミジアが原因菌となるため、淋病やクラミジアになった場合に併発しやすい病気です。淋病やクラミジアの症状が現れている場合にも、骨盤腹膜炎を疑い発症の有無を調べることが大切です。
淋菌やクラミジアに関して詳しく知りたい人は、以下の記事も参考にしてみて下さい。
骨盤腹膜炎の症状
続いては、骨盤腹膜炎の症状についてみていきましょう。症状には個人差がありますが、気になる症状が見られる場合には速やかに婦人科を受診することが大切です。
主な症状
骨盤腹膜炎の主な症状は以下の通りです。
- 強い下腹部痛
- 膿のような粘性の高い黄緑色のおりものが増える。臭いを伴う
- 悪寒や震え
- 39度以上の発熱
- 子宮、子宮付属器の圧痛
- 性交痛
- 不正出血ここに内容を入力
これらは生殖器に関するものを除いて虫垂炎の症状と似ている部分が多いです。
最も多い割合で起こるのは下腹部の強い痛みであるため、最初は内科や消化器科を受診する人も少なくありません。
しかし、診断の確定や治療には婦人科や婦人科のある総合病院が適していると言えるでしょう。その理由については後程紹介していきます。
腹膜が炎症を起こしているため、腹部の鈍痛や圧迫することで鋭い痛みを伴うことが多いですが、この症状は必ずしも現れるものではありません。
中には無症状のまま病状が悪化してしまうケースもあります。
原因菌によって症状の出方に違いがある場合も
骨盤腹膜炎は、原因菌によって症状の現れ方に違いがあるのが特徴です。
クラミジアが原因菌である場合は、比較的症状が現れにくく自覚しにくいため病気の発見や治療の遅れに繋がるケースもあります。
クラミジアに感染したことで骨盤腹膜炎を発症した場合、治療の遅れによりフィッツ・ヒュー・カーティス症候群という肝臓周辺の炎症を引き起こしてしまう場合も。
クラミジアの感染が発覚した場合には、同時に骨盤腹膜炎を起こしていないか十分な検査が必要だと言えます。
その他、淋菌が原因菌である場合は重症化しやすい傾向にあるため、慢性化や他臓器への癒着などを防ぐためにも早期に治療を開始することが重要です。
骨盤腹膜炎の検査と診断
骨盤腹膜炎の検査では、超音波検査の結果から診断するケースが多いです。
特に経腟超音波検査や経腹超音波検査では、卵巣の腫れや子宮と直腸の間にあるダグラス窩腫瘍の有無などから、骨盤腹膜炎の診断を行います。
また効果的な治療を行うためには、原因菌を特定する必要があるため膣分泌液検査を行うことも多いです。
触診や血液検査では、炎症の有無などを調べることができます。しかし、これらの結果では、症状の現れ方が虫垂炎や憩室炎をはじめとする消化器疾患の診断材料と似ているため、骨盤腹膜炎を特定するのは難しいでしょう。
骨盤腹膜炎は性感染症や子宮内避妊具の不適切な使用によって起こりやすい婦人科疾患のため、専門ではない内科や消化器科では発見が遅れてしまうケースもあるようです。
腹部の痛みを感じて内科や消化器科を受診したものの症状が改善されない場合は、おりものの変化や不正出血の有無などを注意深く観察してみて下さい。
腹部の強い痛みの他、生殖器に関する異常が見られる場合は、速やかに婦人科を受診しましょう。
骨盤腹膜炎の治療
続いては骨盤腹膜炎の治療方法について紹介します。骨盤腹膜炎は早期治療を行うことで予後が良くなる一方、病状を放置すると死亡リスクもある病気です。
医師の指示に従い、適切な治療を受けましょう。
治療方法
骨盤腹膜炎の治療では、原因菌に応じた抗菌薬投与が行われます。
症状の程度によって抗菌薬の強弱も変わり、急性期の骨盤腹膜炎では強い抗菌薬を投与して治療することも。
治療中は絶対安静なので、病状が悪い場合や安静にするのが難しい場合には入院して治療を行うことも珍しくありません。
卵管瘤膿腫や卵巣膿瘍があり、抗生剤の投与で症状が改善しない場合には、外科的処置により膿腫や腫瘍を排出する処置をするケースもあります。
この場合、膿腫や膿瘍に管を通して膿を体外に排出するドレーン術を行うのが一般的。
また、腸などの消化器に癒着や穿孔(穴が開くこと)が見られる場合は、緊急的に開腹手術が行われます。
骨盤腹膜炎は重症化している場合を除いて、多くのケースで投薬治療によって症状が改善しやすいと言われており、極軽度の場合は自然治癒するケースもあります。
一方で重症化すると、命を脅かす重篤な症状を起こすこともあるため、病状の放置は大変危険です。
適切な治療を受けないと死亡リスクもある
骨盤腹膜炎を発症すると、子宮と直腸の間に位置するダグラス窩という部分に膿がたまった病変部ができてしまうことがあり、これをダグラス膿瘍と言います。
その他、卵巣付近で膿がたまると卵巣嚢腫ができることもあります。
ダグラス膿瘍や卵巣膿腫を放置し体内で膿瘍から膿があふれ出てしまうと、細菌が血液を侵す敗血症という病気を発症する危険性があります。
敗血症は現代でも死亡リスクの高い病気のひとつで、重度敗血症になるとICUでの治療が必要になるケースも珍しくありません。死亡率も3割程と高い割合で、急激に悪化するケースも多いため非常に危険です。
敗血症を引き起こさないためにも、骨盤腹膜炎に伴いダグラス膿瘍や卵巣腫瘍等が見られる場合は、外科的処置による速やかな治療を受けましょう。
骨盤腹膜炎は完治できる?
骨盤内腹膜炎は適切な治療を受けることで完治可能な病気です。
完治までにかかる期間は、病状によって異なりますが概ね2~4週間と言われています。
ただし、無症状で骨盤腹膜炎を発症してしまい病気の発見や治療開始が遅れてしまうと、慢性化し完治が難しくなるケースも。
慢性化した骨盤腹膜炎は他の部位に癒着を起こすことも多く、腸に癒着が起こると通過障害(腸が正常に動かないことで、上手く消化吸収や食べ物の運搬ができなくなる状態)や穿孔(せんこう:穴があくこと)などを起こすこともあります。
この場合、開腹手術が必要となり完治までにかかる時間はさらに長くなると予想されます。
骨盤腹膜炎は慢性化させないことが完治の近道です。早期診断と速やかな治療開始が重要だと言えるでしょう。
また、骨盤腹膜炎は抗生剤投与後すぐに完治するものではないため、医師による経過観察も必要です。抗生剤投与後は、医師による完治の確認ができるまで性行為を控えるようにして下さい。
骨盤腹膜炎の後遺症
骨盤腹膜炎は早期治療で完治が可能なものの、癒着により卵管が閉塞してしまうなどの後遺症が残ることがあります。
卵管が閉塞すると正常な排卵を行うことができず、不妊の原因となることも。
また、骨盤腹膜炎は細菌感染による炎症なので何度でも発症する可能性がある病気です。骨盤腹膜炎を複数回発症した場合、2度目の発症後は妊娠率が下がり、3度目4度目と繰り返す度に妊娠率が低下していくとの報告もあります。
比較的若い女性に発症しやすいこともあり、現在妊娠を希望している人や将来的に妊娠を希望している人は、特に治療と予防が大切です。
骨盤腹膜炎にかかりやすい人の特徴
骨盤腹膜炎は、比較的若い女性に起こりやすい病気のひとつ。特に初潮を迎えた後から35歳未満の女性に多く見られる病気です。
女性の4~12%が発症しているというデータもあり、性行為による細菌感染が原因となっていることも若い女性に発症しやすい理由のひとつと言えるでしょう。
一方で初経前や閉経後の女性が発症する例は少ないと言われています。
さらに、1度でも骨盤腹膜炎を患ったことのある人は再発しやすく、骨盤内炎症性疾患、細菌性膣症、性感染症にかかったことのある人も発症リスクが高くなります。
骨盤腹膜炎の予防方法
骨盤腹膜炎を予防するには、細菌感染を防いだり子宮内避妊具(IUD)を適切に使用することが有効だと言われています。
性行為による細菌感染を防ぐには、淋菌やクラミジアの保菌者との性行為を避けるためコンドームの使用が効果的です。淋菌やクラミジアは性器に症状があらわれるケースもあります。パートナーに異変がある場合には性行為を避けて下さい。
骨盤腹膜炎の原因菌となりやすい細菌だけでなく、性感染症を引き起こす要因が膣内に侵入するのを防ぐため、日頃からコンドームを使用するのが良いでしょう。
子宮内避妊具を装着する場合には、医師による定期的なチェックが大切です。
子宮内避妊具の不適切な使用が原因で骨盤腹膜炎を起こす症例では、定期健診を受けず子宮内避妊具を挿入したことを忘れて何年も放置している人が多いとの報告もあります。
子宮内避妊具には適切な使用期間があるため、正しく挿入されているのか確認したり適切な期間で取り換えたりするためにも婦人科での定期健診が欠かせません。
子宮内避妊具について詳しく知りたい人は以下の記事も参考にしてみて下さい。
まとめ
性感染症や子宮内避妊具の誤った使用によって引き起こされやすい骨盤腹膜炎について解説してきました。
強い腹痛や発熱などの炎症症状から他の消化器系疾患と間違われやすいですが、おりものの変化や不正出血など女性器にまつわる症状で発見できるケースも多くあります。
完治のためにも早期発見や速やかな治療開始が必要な病気です。普段から、おりものの変化や不正出血の有無などを気にかけて異変があれば婦人科に相談する習慣を付けておくと良いでしょう。
また、性行為でのコンドーム着用や子宮内避妊具の適切な使用で、日頃から骨盤腹膜炎を予防して過ごすように心がけてみて下さい。